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異世界通信記録:恒久の道しるべ ~祈りを合わせて~
「……皆さん、配置に付きましたか」 シルビアの静かな声が、薄暗い儀式場に響く。 和装風のローブに、金縁の紫マントを羽織ったシルビアは、その華奢な体躯で術式の中心に立つ。 貴族の出である彼女は、ブロント少尉とは直接の面識がない。 彼女の関心は、あくまで術式の完璧な制御と学院の威信だ。 「チェルキーさん、プリーストとしての精神力の供給は、問題ありませんか?」 「問題ないよ!いつでもいける! !」 南に立つチェルキーは力強く頷いた。 「リリスさん、呪歌の調律は整っていますか」 「ああ、整ってるよ。面倒な任務には慣れているからな」 北に立つリリスは、冷笑的な表情のまま答える。 青いマントとメイド服という異質な組み合わせだが、その声に乱れはない。 「シャーリーさんも、プリーストとしての祈り統合をお願いしますね」 「お任せでござる!!」 東に立つシャーリーも、真剣な眼差しをゲートに向ける。 「よろしい。では、参りましょう」 シルビアが静かに告げると、四人の間に張り詰めた魔力が満ちた。 「我らの道標よ、常世の理とならんことを……」 シルビアが術式を起動させ、魔法陣はまばゆい光を放ち始める。 リリスの呪歌、チェルキーとシャーリーの祈りが共鳴し、不安定だった異界の門を、この世界に縫い付けていく。 そして、魔法陣の光が収束し、ゲートは静かに安定した。 安堵に息をつく中、四人の准導師の脳裏に、モールス信号のリズムが直接聞こえてきた。 --. .- - . / --- -.- (GATE OK) ..-. .. -..- . -.. (FIXED) 面識のないシルビアは静かに目を閉じて術式の最終確認をするが、ブロント少尉と面識がある三人は、この「OK」の報告に安堵の表情を見せた。 だが、数拍の間を置いた後、力強い打鍵が続いた。 .... .- ...- . / --- .... --. / .--. .-.. ... (HAVE OHG PLS) 「……はあぁぁ!? おはぎ!? こんな重大な報告の直後に、それ!?」 チェルキーが儀式場に不釣り合いな大声を上げた。彼女は美食の神を信仰し、料理に命を懸けている。 リリスは冷笑的な顔のまま、小さく鼻を鳴らした。 「……まったく、あの少尉らしいな。地球産の材料をもちこんで、あんたに最高のおはぎを作らせるつもりだな」 シャーリーは、正統派な姿を崩すことなく、苦笑いを浮かべた。 「そのようです、リリス殿。任務の完了即、次の食料任務とは……少尉殿らしい三段論法でござる」 シルビアは静かにそのやり取りを聞いていたが、冷静に袖口から木製の電鍵を取り出した。彼女には面識がないが、少尉からの「通信」を無視する理由はない。 「全く、お忙しい方ですね。ですが、常設になりました。地球産の材料もすぐにてにはいりますよ」 彼女は指先で優雅に電鍵を叩いた。最高峰の術式を完成させた准導師が、異世界の食いしん坊な少尉と交わす、恒久的な交流の始まりの合図だった。
