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ツーサイドアップ騒動:図書室の理力波
学院の古い図書室。静寂を破るかのように、一人の銀髪のハーフエルフが、いつもと違う髪型で戸惑いがちに立っていた。 リリス、呪歌学科の助教である。 その麗しい銀髪は、両サイドで控えめに結い上げられ、普段の厳粛な雰囲気に、どこか初々しい可愛らしさを添えていた。 (くっ、くそ。チェルキーのやつ、無理やりこんな髪型にしやがって) 心の中で小柄な神官戦士に毒づくリリス。 と、そこに、不躾な足音と共に現れたのはシャーリーだった。 制服に金縁の赤いマントを翻し、ツーサイドアップにした黒髪を揺らす。 長身の彼女が、無理に作った若々しい笑顔が張り付いている。 シャーリーはリリスの姿を見るなり、ニヤニヤと口元を歪めた。 「おや、リリス殿、なんですか。その髪型は?ふひひ?痛々しいですな?」 リリスは、僅かに眉根を寄せた。暗黒神の使徒たる助教が、このような子供じみたヘアスタイルにされていること自体、不本意極まりないのだ。 しかも、この長身のトリックスターにそれを指摘されるとは。 「アンタが言うな!!」 リリスは、冷静さを失い、思わず強い言葉で言い返した。 銀髪が揺れ、その長身に不似合いなツーサイドアップの結び目が、激しい感情の動きを示す。 シャーリーは一瞬、目を見開いたが、すぐにニヤリと笑うと、リリスの周囲を回り始めた。 「ふひひ、冗談ですよ、リリス殿。良く似合っていますぞ。……ま、拙尼の方が似合っていますがな!!」 その瞬間、リリスの静かな怒りが臨界点に達した。彼女の銀髪が、一瞬、暗い光を放った。 「そんなわけあるか!!」 リリスは、感情のままに叫んだ。 普段の冷静沈着な助教からは想像もつかない大声である。 「――理力波!!」 ドォォン!! 不可視の衝撃波がシャーリー目掛けて放たれた。 幸運神の使徒といえど、暗黒神の助教の全力の一撃は回避できない。 ボカ~ン!! 鈍い音と共に、シャーリーは図書館の棚に激突し、埃と本の雪崩に埋もれた。 リリスは、ハッと我に返った。自分の行動に驚き、ツーサイドアップにした髪の根元が、うっすらと赤く染まる。 図書室は騒然となり、生徒たちは一斉にリリスと、棚に埋もれたシャーリーを交互に見た。 **厳粛なる暗黒神の使徒の「意外な可愛らしさ」**と、**幸運神の使徒の「痛々しい変装」という、真逆のギャップが衝突し、「理力波」**という物理的な結果を生んだ瞬間であった。
